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福岡地方裁判所 昭和56年(行ウ)15号 判決

福岡市南区大橋1丁目8番21号

原告

弥吉悦子

右訴訟代理人弁護士

合山純篤

同市中央区天神1丁目8番1号

被告

福岡市固定資産評価審査委員会

右代表者委員長

杉原実

右訴訟代理人弁護士

稲沢智多夫

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  物件の所在地・福岡市南区大橋1-8-1大橋西口ビル2階、地目種類・機械及び装置並びに工具器具及び備品、登録価格603万5,809円、申出価格403万4,621円について、原告の福固審委第2号償却資産の固定資産評価審査申出に対して、被告が昭和56年6月22日付でなした「本件審査申出を棄却する。」との決定(以下「本件決定」という。)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、肩書住所地においてスナックを営む者であるが、右営業のため、別紙1の「資産内容」欄記載の機械及び装置並びに工具器具及び備品の償却資産(以下「本件償却資産」という。)を「取得年月」欄記載の時期に「取得価額」欄記載の金額で取得した。

2  原告は、昭和56年5月16日、福岡市南区長に対し、本件償却資産について、地方税法(以下、単に「法」という。)383条に基づく固定資産の申告をした。

3  これに対し、南区長は、同年5月28日ころ、法417条1項により、原告の所有する本件償却資産の価格等を合計603万5,809円と決定して課税台帳に登録し、その旨原告に対して通知した。そこで、原告は、被告に対し、同年6月1日付で右決定につき審査の申出をしたところ、被告は、本件決定をした。

4  本件決定は、違法又は違憲である。

5  よって、原告は、本件決定の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  同4の主張は争う。

三  抗弁

1  被告が本件償却資産を評価するに際して用いた方法は、次のとおりである

(一) 固定資産税の課税標準となるべき固定資産価格の評価については、法388条1項に基づく昭和38年自治省告示第158号(いわゆる「固定資産評価基準」。以下、このように呼ぶ。)がある。本件償却資産の評価は、右評価基準の第三章(償却資産)第一節(償却資産)二「前年中に取得された償却資産の評価」(以下、同章節の各条項を「本件条項二」のように表示する。)に従い、かつ法414条の制限に従って算定した。同条の制限は、当該年度の7月1日以降に取得したものについて働くことになる。

(二) 右のような評価算定の方法を仮定事例で示してみる。例えば、納税義務者が昭和52年2月に取得価格金100万円、耐用年数5年の償却資産を取得したと想定する(以下、この事例を「事例甲」という。)。この場合、賦課期日である昭和56年1月1日現在における右償却資産の評価は、本件条項二により、当該償却資産の取得価額100万円からこれに本件条項二所定の「耐用年数に応ずる減価率表」の耐用年数5年に応ずる減価率0.369を乗じて得た額36万9,000円の2分の1である18万4,500円を控除した残額81万5,500円となる。

また、例えば、昭和55年11月に事例甲と同じ償却資産を取得したと想定してみる(以下、この事例を「事例乙」という。)。この場合、法414条により、償却資産の価格は、法人税法又は所得税法の規定による減価償却額又は減価償却費の計算の基礎となる償却資産の価額(右価額は、いわゆる月割償却法<1月に満たない端数を生じたときは、これを1月として、当該年分の償却費に相当する金額を12で除し、これに当該業務の用に供された日からその年12月31日までの期間の月数を乗じて計算した金額を取得価額から控除する方法>により、当該償却資産の取得価額100万円からこれに前記減価率0.369を乗じて得た額36万9,000円の12分の2である6万1,500円を控除した残額93万8,500円となる。)を下ることができないので、本件条項二によって算出される前記81万5,500円とを対比して、事例乙における償却資産の価格は、93万8,500円と決定される。

(三) 右算定方式によると、本件償却資産の評価額は、合計金603万5,809円となる。

2  右の算定方法は、固定資産評価基準に従い、かつ法414条の制限に従ったもので、適法である。

(一) 固定資産評価基準は、法的拘束力を有している。このことは、法388条の改正経過から明らかである、即ち、従前、昭和37年3月31日法律第51号地方税法の一部を改正する法律(以下、「昭和37年改正法」という。)の改正前の法403条1項が「市町村長は、<略>自治大臣が示した評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続に準じて、固定資産の価格を決定しなければならない。」とされていたため、固定資産評価基準は、市町村長に対する技術的援助のひとつとされ、その形式も自治事務次官の依命通達によっていたところ、市町村の固定資産の評価がまちまちとなっていたので、固定資産の評価の均衡化を図るため、昭和37年改正法による改正後の法同条項を、「市長村長は、<略>第388条第1項の固定資産評価基準によって、固定資産の価格を決定しなければならない。」と改められ、同時に、法388条1項として、「自治大臣は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(<略>)を定め、これを告示しなければならない。」との項が新たに追加され、固定資産評価基準が官報に掲載され一般に告知された。従って、右改正後は、固定資産評価基準と異なる評価方法を採用することは許されなくなったもので、同基準には法的拘束力がある。

(二) 本件条項の定める評価方法は、合理的かつ適正なものである。即ち、右評価方法によると評価事務が簡便であるばかりでなく、ひとつの企業をとってみた場合、資産全体としてみると当該年の1月に取得する資産もあれば12月に取得する資産もあるから平均すれば中央となる時点で取得したものとみなしても月割償却を行う場合と大差はないからである。なお、いわゆる税務会計上は、原則として月割償却法を採用しているが、年度の中途において事業の用に供した減価償却資産である機械及び装置等について簡便な償却法によることが特例として認められている(法人税法施行令59条2項、所得税法施行令132条2項)。

(三) 右のように、固定資産評価基準の定める評価方法は、合理的かつ適正なものであって、憲法29条、84条に違反しない。

四  抗弁に対する原告の認否及び反論

1  抗弁1の(一)、(二)の事実は認める。

2  同2の主張は争う。被告が採用した評価の算定方法は、違法又は違憲である。

(一) ある年の中途に取得した償却資産の賦課期日の時点における評価は、月割りで計算して評価するのが合理的である。即ち、事例甲では、昭和56年1月1日現在における当該償却資産の評価額は、その取得価額100万円からこれに前記減価率0.369を乗じて得た額36万9,000円の12分の11である33万8,250円を控除した残額66万1,750円と算定されるべきである。この算定方式によると、本件償却資産の評価額は、別紙1の「原告の評価方法による評価(価格)」欄記載とおり、合計金409万7,606円となる。

被告主張の算定方式は、その年のほぼ前半に取得した償却資産については、本件条項二を適用し、ほぼ後半に取得したものについては月割りで計算するというのであって、一貫性がない。また、被告は、ひとつの企業の資産全体としてみると平均化されると主張するが、原告のような営業形態の場合は、設備備品を開業時に殆ど全部購入するのが一般である。被告の主張は、営業の実際を無視した観念論である。さらに、被告主張の算定方法が原告主張の算定方法より簡便であるとはいえず、かえって面倒であると思われる。

(二) 一方、固定資産評価基準には法的拘束力はないと解すべきであるから、被告は、右の合理的な算定方式を適用しなければならないのに、抗弁1のような不合理な算定方式を適用したから、本件決定は違法である。

(三) 仮に固定資産評価基準に法的拘束力があるとしても、本件条項は、次のように解釈すべきである。

即ち、本件条項一には、わざわざ「償却資産の評価の基本」と題して基本原則が規定されているから、その趣旨とも併せ考慮すると、本件条項二の中の2分の1という数値は、課税の便宜上から一応右数値を用いることとしたものと考えられる。確かに、ある年度のちょうど中間時点で取得した償却資産の場合には、2分の1という数値は、実態と合致して適切なものである。しかし、いかに課税の便宜とはいえ、「疑わしきは納税者の利益に」の標語のとおり、右条項を納税者にとって不利益に作用する方向で解釈することは許されない。この見地から、

(1) 納税者が右条項の2分の1の数値を適用して申告してきた場合には、それに従って評価してよい。

(2) しかし、納税者が本件条項の適用を拒んで、前記のような月割計算の方法をとって申告してきた場合には、本件条項一の基本原則により月割計算によって評価算定すべきである。

従って、本件条項は、一律に2分の1という数値を適用して評価しなければならないとする趣旨ではなく、かえって納税義務者が月割計算の方法で申告した場合には、これに従うことを義務づけたものと解釈すべきである。しかるに、被告は右算定方法を適用しなかったから、本件決定は違法である。

(四) 仮に本件条項二が一律に2分の1という数値を適用して評価しなければならないとする趣旨であるならば、右条項は、合理的な根拠を欠き、実質的に国民の財産権を不当に侵害するものであり、また租税法律主義に反し、憲法29条、84条に違反するものである。従って、本件決定は違憲である。

第三  証拠

一  原告

1  甲第一ないし第三号証

2  乙各号証の成立は認める。

二  被告

1  乙第一号証の一、二、第二ないし第八号証

2  甲各号証の成立は認める。

理由

一  請求原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

二  抗弁1の(一)、(二)の事実は、当事者間に争いがない。

そこで、被告が本件償却資産を評価するに際して用いた算定方式の適法性について検討する。

1  法403条1項には、「市町村長は、<略>第388条第1項の固定資産評価基準によって、固定資産の価格を決定しなければならない。」と規定され、右固定資産評価基準は、昭和38年12月25日、自治省告示第158号(地方税法第388条第1項の規定に基づく固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続」)として告示された。

本件条項二は、「前年中に取得された償却資産の評価は、当該償却資産の取得価額から当該償却資産の取得価額にα/2を乗じて得た額を控除してその価額を求める方法によるものとする。この場合においてαは、当該償却資産の『耐用年数に応ずる減価率表』に掲げる耐用年数に応ずる減価率とする。」と定めており、他方法414条は、「市町村長、道府県知事又は自治大臣が償却資産の価格を決定する場合においては、その価格は、法人税法又は所得税法の規定による所得の計算上損金又は必要な経費として控除すべき減価償却額又は減価償却費の計算の基礎となる償却資産の価額を下ることができない。」と定めているから、前年中に取得された償却資産の評価は、右法条及び固定資産評価基準に従う限り、被告主張のとおりの算定方式によることになるといえる。

成立に争いのない甲第一、第二号証、乙第二、第三号証によれば、被告は、右法条及び固定資産評価基準に従って、抗弁1の(三)の事実のとおりの金額を算定して決定したことが認められる。

2  ところで、被告は、評価に用いた固定資産評価基準が法的拘束力を有するものであると主張し、原告はこれを争い、より合理的な原告主張の算定方式を採用すべきであると主張するので、この点を判断する。

およそ、告示とは、公示を必要とする行政措置の公示の形式である。固定資産評価基準は、法388条1項に基づき、その明示的具体的委任を受けて、自治大臣(国家行政組織法14条1項)が固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続について市町村間の評価の統一均衡化をはかるために発したものであって、昭和37年改正法による改正前の法403条1項が市町村長は自治大臣が示した評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続に「準じて」固定資産の価格を決定すべきものとしていたのを、同改正法によって、前示のように、同条項において、法388条1項の固定資産評価基準に「よって」固定資産の価格を決定しなければならないと定められ、あわせて法388条1項において、「自治大臣は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(<略>)を定め、これを告示しなければならない。」と定めて、自治大臣に対し明示的具体的委任をした経緯は、改正前後の右各法条の対照と改正理由によって明らかであり、成立に争いのない乙第四ないし第七号証によってもこれを認めることができるので、これに徴すると、市町村長は、固定資産評価基準に従った評価をなすべく義務づけられているものと解するのが相当である。その意味で、【A】固定資産評価基準は、法的拘束力を有しているものといわなければならない。従って、被告が本件償却資産の評価にあたって固定資産評価基準に従ったこと自体、これを違法ということはできない。

3  次に、原告は、被告が固定資産評価基準に従ったことに対し、これを不合理なものであると主張し、それを前提として違憲の主張をする。そこで、先ず、法及び固定資産評価基準(とりわけ、本件条項)の定める算定方法自体の合理性の有無について考察する。

(一)  固定資産税は、土地、家屋及び償却資産の資産価値に着目して課税されるものであるが、その税源としては、当該資産自体を切り売りすることが本来予定されているものではなく、通常、当該資産より生ずる収益から納税されることを予定するものであり、その意味では、固定資産の有する本来的収益可能性に着目して課税されるものであると解することができる。このことは、固定資産税の課税客体となる償却資産について、法341条4号本文に、「土地及び家屋以外の事業の用に供することができる資産(<略>)でその減価償却額又は減価償却費が法人税法又は所得税法の規定による所得の計算上損金又は必要な経費に算入されるもの(これに類する資産で法人税又は所得税を課されない者が所有するものを含む。)をいう。」と定められているので、償却資産が本来的に事業の用に供されて収益を生ずべき価値を具有する性質のものであるとして、その価値に担税力を見出し、その償却資産そのものの有する本来的収益可能性に固定資産税課税の根拠をおいていることからも明らかである。この意味で、【B】固定資産税は収益税的財産税とされる。

一方、減価償却とは、固定資産の物理的又は経済的な損耗を一定の方法により見積り、その減耗額(減価償却額又は減価償却費)をその資産の耐用年数の期間内の各年度に割り当てて、当該割り当てた額を固定資産の帳簿価額から減額することをいう。減価償却の結果、貸借対照表上において償却資産の評価額の漸減が、損益計算書上においてその減少分に相当する減価償却額又は減価償却費の費用化がそれぞれ表示計上される。かかる減価償却の本質について、会計学上いわゆる評価説と費用配分説との争いのあるところであるが、いずれの見解に立つにせよ、貸借対照表上の償却資産の漸減が観念的には当該資産の価値の低下を反映するものとして表示計上されるものであることは明らかである(この点に関する限り、評価説ではそれがまさに減価償却の本質であると説明され、費用配分説では、それは一種の擬制であると説明されるという差異があるにすぎない。)。そして、右減価の発生原因については、概ね継続的、規則的かつ必然的に生ずるいわゆる物理的減価と一般に突発的に生ずるいわゆる機能的減価とに分類されるが、後者は特に具体的測定が困難であるし、また現実の多様な償却資産の具体的な減価の状況を実地に正確に捕捉してその都度減価額を決定していくということは、それ自体実行困難で、そのうえ恣意性の混入を防ぎがたい。そうでなくとも、費用の期間的配分が適正に行われないおそれがあるため、いわゆる継続性の原則により、一旦採用された減価償却の方法は、みだりに変更することはできないものとされる。このように一定の方法で算定表示される資産価値の漸減は、当該企業において当該償却資産の価値がそのように漸減していくことの反映であると擬制されたものにほかならない。このようにして漸減していく当該償却資産の価値の総和は、当該資産の取得価額、耐用年数及びこれに対応する定率法(償却費が毎年一定の割合で逓減するように、当該償却資産の取得価額にその耐用年数に応じた償却率を乗じて計算した金額を各年分の償却費として償却する方法をいう。)の償却率で表示すると、別紙2数式1のように表わされる。

従って、償却資産についての固定資産税は、右の価値の総和を担税力の根拠とするものであるから、課税標準たる価格として捕捉すべき当該償却資産の価格の総和は、可及的に耐用年数の期間に保有する価値の総和に近似するものであることが望ましいこというまでもない。

そこで、本件条項に基づいて算定される償却資産の価格の総和をみるに、同条項二は、前記のとおりであり、同条項三は「前年前に取得された償却資産(当該年度において新たに課税されることとなるものを除く。)の評価は、当該償却資産の前年度の評価額から当該償却資産の評価額に当該償却資産の『耐用年数に応ずる減価率表』に掲げる耐用年数に応ずる減価率を乗じて得た額を控除してその価額を求める方法によるものとする。」旨定めているから、課税標準たる価格は、耐用年数の期間内のある年度では一般項として別紙2数式2のとおり表わされる(前顕乙第8号証によれば、固定資産評価基準の評価ハンドブックにおいても、同一の算式によって説明されていることが認められる。)。耐用年数の期間のその総和は、数式3のとおり表わされる。

ところで、税務上、本件償却資産に適用される減価償却資産の残存価額は取得価額に100分の10の残存割合を乗じて計算した金額とされる(減価償却資産の耐用年数等に関する省令・昭和40年3月31日大蔵省令第15号第5条)から、耐用年数の期間に保有する価値の総和と課税標準たる価格の総和は、それぞれ別紙2数式4、5のとおり表わされる。

そこで、右の耐用年数の期間に保有する価値の総和と課税標準たる価格の総和の大小関係及びどの程度の差があるかをみると、耐用年数の期間の課税標準たる価格の総和は保有する価値の総和より常に大であるが、その差は別紙3の表のとおり、耐用年数2年の場合に約10%であるが、3年の場合に5%弱、5年の場合に2%弱であって、耐用年数が長くなるにつれて単調に比率が減少して、耐用年数が20年の場合には約0.1%になることは、計数上明らかである。

差がこの程度に止まることは、耐用年数の期間の課税標準たる価格の総和がその期間に保有する価値の総和に極めて近似するものということができ、従って、【C】本件条項に定められている償却資産の価格の算定方式は、簡易なものであって、かつ、固定資産税課税の根拠に極めてよく合致したものであるということができる。

(二)  なお、原告は、償却資産についての固定資産税の課税標準は当該償却資産を当該年度の内でいつ取得したかによって異なるのが合理的であるとの前提にたって、当該償却資産の取得時期が異なる事例甲、乙を比較すれば、固定資産税賦課初年度の課税標準は事例甲の方が事例乙よりも少額でなければ不合理であると主張するが、右の原告の主張は、既に述べた固定資産税の課税根拠からも明らかなように、全く採用の余地がないといわなければならない。なお、付言するに、このことは、事例甲、乙において、償却資産取得の時期を異にすることにより当該償却資産の耐用年数の期間内に負担すべき税額の総和を異にすることをもって一般的に合理的なものといいうるかを考えれば、自ずと明らかである。原告の発想は、1年度内で、償却資産を保有していた期間の長さと当該年度における課税標準額とは比例すべきであるというものであるが、固定資産税は、収益税的性格を有するものの、あくまで財産税であり、しかも償却資産は漸次その価値を逓減するのであるから、たやすくこれを単純比例計算するならば、極めて不公平な結果を招来することが明らかである。尤も、課税額の各年度への期間的適正配分の観点からいえば、当該年度における保有期間を考慮することも立法政策としては考えられないことはない。しかしながら、定率法による減価償却の方法を採用する以上、厳密な意味での期間配分は、月割りにせよ一々積分計算を経るほかなく、大量で迅速な処理を求められる税務実務上での採用は到底不可能であること明らかである。

(三)  右に述べたように、本件条項の定める算定方法自体は極めて合理的なものと考えられるが、法414条により、固定資産税の課税標準たる償却資産の価格は、法人税法、所得税法上の減価償却費計算の基礎となる償却資産の価額を下ることが許されず、他方、法人税及び所得税の各制度上は、いわゆる月割計算方法が採用されている(法人税法施行令59条1項、3項、所得税法132条1項、3項)ことの結果として、固定資産税の課税標準たる償却資産の価格決定の算定方式は、前記のように、いわば二段構えとならざるをえず、本件条項の定める算定方式に従って算出した価額とは異なった価額をその償却資産の価格として決定しなければならないこととなる場合が生ずる。この点を捉えて、原告は、課税が一貫せず不合理であると主張するが、一方において、法414条の規定の趣旨は事業を営む法人又は個人が法人税又は所得税の納税額を不当に減少させようとして償却資産の過大評価をすることを可及的に防止しようとするところにあり、同条はそれ自体合理的な立法であり、他方において、法人税及び所得税が純然たる収益税であって、当該企業又は個人の事業年度内の所得を可及的に合理的に捕捉するため、年度の中途で事業の用に供した償却資産についていわゆる月割計算法を採用していることもそれ自体として合理的なことであるというべきである。【D】これらの結果として、必然的に本件条項によって算定される償却資産の価格が法人税法、所得税法上の減価償却費計算の基礎となる償却資産の価額を下廻る場合には、後者の価額をもって固定資産税の課税標準たる価格とせざるをえないことは、やむをえないことであるといわなければならない。

なお、我が国現行税制上、法人税及び所得税が最も根幹的な税であることはいうまでもなく、原告主張のような計算方法はそれ自体としての不合理性もさることながら、他面本末を転倒したものであるとの批難を免れないものというほかはない。

(四)  以上のとおりであるから、被告が本件償却資産の評価につき法及び固定資産評価基準の定める算定方法に従ったことは、これを違法、違憲ということはできない。

4  被告が法及び固定資産評価基準に則って評価した本件償却資産の価格は、合計603万5,809円を下らないこと計算上明らかである。被告の算定には、何ら違法、違憲の点はない。本件決定は相当であるというべきである。

三  よって、原告の請求は、理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 富田郁郎 裁判官 川本隆 裁判官 松本光一郎)

別紙1

〈省略〉

別紙2

〈省略〉

別紙3

〈省略〉

訴状

福岡市南区大橋1丁目8の21

(決定書上の住所 同市同区大橋1丁目10-10)

原告 弥吉悦子

福岡市中央区赤坂1丁目7番23号弁護士ビル301

右原告訴訟代理人弁護士 合山純篤

福岡市中央区天神1丁目8番1号

福岡市役所財政局税務部税制課気付

被告 福岡市固定資産評価審査委員会

右代表者委員長 杉原実

固定資産課税審査棄却取消請求事件

訴訟物の価額金35万円

貼用印紙額金3,400円

請求の趣旨

一、被告が昭和56年7月1日付(福固審委第13号)でなした原告の納付すべき同年度の固定資産税に係る福岡市南区大橋1-8-1大橋西口ビル2階所在機械及び装置並びに工具器具及び備品の償却資産課税台帳に登録された価格についての原告の審査申立に対する棄却決定を取消す。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

請求の原因

一、原告は、福岡市南区大橋1-8-21(決定書上は1-8-1となっている。)大橋西口ビル2階においてスナック(店名ジョイ)を営む者であるが、右営業のため、別紙資産目録兼計算書記載のとおりの機械及び装置並びに工具器具及び備品の償却資産を右目録記載の各取得年月及び取得価額(取得価額合計803万8,600円)でこれを取得した。

二、原告は、昭和56年5月16日、福岡市南区長に対し、右償却資産について、その昭和56年1月1日時点の評価額(価格)合計が金403万4,621円になる旨の申告をした。

三、しかるところ、南区長は、昭和56年5月28日ごろ、右価格合計は603万5,809円である旨の決定をなしてきたので、原告は、昭和56年6月1日付で、右価格決定につき、被告に審査の申出をなしたところ、被告は、昭和56年7月1日付で右審査の申出を棄却する旨の決定をなしたものである。

四、ところで、取得年月や取得価額や耐用年数に争いのない同一の償却資産の評価につき、なぜ、右のように603万5,809円と403万4,621円という違いが出てくるかということについては、左のような事由に基くものであることが判った。

1 固定資産の評価については、地方税法388条1項に基いて自治大臣の告示(いわゆる固定資産評価基準)がなされている。

2 この評価基準の第三章(償却資産)第一節(償却資産)の個所には甲5号証のような定めがあり、本件について、南区長は、右第三章第一節二「前年中に取得された償却資産の評価」を適用して評価したから前記のような評価額になったものであることが判った。

3 この第一節二の規定を分りやすく説明すると次のような趣旨であるものらしい。

(イ) すなわち、今、仮に、昭和55年2月に取得価額100万円の償却資産を納税義務者が取得したという事例を考えた場合、問題は賦課期日である昭和56年1月1日時点における右償却資産の評価がいくらになるかということである。

(ロ) 右償却資産の耐用年数が5年とすると、この耐用月数による定率法の償却率は0.369(この0.369が右評価基準の第1節2にいうαの数値である。)であるから、昭和56年1月1日時点の評価額(価格)は、

〈省略〉

と評価されるというのが右第一節二の規定の趣旨である。そして、福岡市南区長も、右の評価方式で本件償却資産を評価したものである。

4 これに対し、原告は、年度の途中に取得した償却資産の賦課期日の時点における評価は、右のように一律に〈省略〉を乗じて算出する方式ではなく、いわば、月割的に計算して評価すべきであるというのである。すなわち、前記取得価額100万円の償却資産の事例でいえば、その昭和56年1月1日時点における評価(価格)は、

〈省略〉

であるべきであるというのである。

五、以上の原告の言い分を法律的に構成すれば、次のようになる。

1 右評価基準第一節二(以下二項という)の規定における〈省略〉という数値は、課税の便宜上から一応〈省略〉という数値を用いることとしたものと考えられ、確かに、ある年度のちょうど中間時点(6月)で取得した償却資産の場合には、〈省略〉という数値も実態と合致して適切なものである。しかし、いかに課税の便宜とはいえ、それが納税者の不利益に作用する方向で解釈してはならない。「疑わしきは納税者の利益に従う」ということばもあるのである。

2 右評価基準は、次のように解釈されるべきである。

(イ) 納税者が、右二項の〈省略〉の数値を適用して申告してきた場合にはそれに従って評価する。それが、ある年度の11月ごろ取得した資産であった場合でも、〈省略〉という数値を適用することは、これは納税者に有利なことであるから、〈省略〉を適用して評価してもよい。

(ロ) しかし、納税者が、二項を適用することを拒んで、前記のとおり月割計算する方法で申告して来た場合、(これは、ほとんどの場合、本件の如く、ある年度の中間時点より以前に償却資産を取得した場合であろうと思われる。)には、右評価基準第三章第一節一の基本原則を適用して月割計算による評価方式を採用することを妨げないものである。

(ハ) すなわち、右評価基準は、一律に〈省略〉という数字を適用して評価しなければならないという趣旨、換言すれば、本件のように月割方式による評価方法を排除する趣旨ではなく、右月割方式による評価方法を取ることも許容されるものとの趣旨に解釈されるものである。

3 被告は、この点において、右評価基準の解釈を誤ったもので、本件審査の申出棄却決定もこの誤りに基因するものであり、本件棄却決定は、違法なものとして取消を免れない。

4 もし、右評価基準が前記のように解釈できないものであるとするならば、それは、国民の財産権を不当に侵害し、又、適正な手続条項にも反し、違憲な告示といわなければならない。

六、原告が、なぜ本訴を提起してまで、償却資産の評価にこだわるかというと、償却資産の初年度の評価額は、次年度、次々年度という具合に長期に亙って、固定資産税算出の基礎となる評価額の基準となるので、当該償却資産の耐用年数全期間に亙る固定資産税額総額の差異は相当な額になるからである。更に、原告のような営業形態の場合には、その設備備品は、開業時に、ほとんど全部を購入するのが一般であり、開業後に、購入する備品等は補充的なものでしかすぎないので評価方法いかんの問題は大きな問題なのである。

七、なお、原告において、本訴を提起するにあたり、右両評価方法によって計算し直したものが、別紙資産目録兼計算書であるが、原告の評価方法による合計額(申告額)も、被告の評価方法による合計額(決定額)も、ともに、計算上の集計ミスがあるようである。

証拠方法

一、甲1号証(償却資産申告書) 1通

二、〃2〃(価格決定書―ハガキ―) 1通

三、〃3〃(審査の申出書) 1通

四、〃4〃(棄却決定書) 1通

五、〃5〃(自治大臣告示のばっすい) 1通

その他必要に応じ提出する。

添付書類

一、委任状 1通

一、甲号証写各1通を訴状正本のみ添付

昭和56年7月18日

右原告代理人 合山純篤

福岡地方裁判所

御中

資産目録兼計算書

〈省略〉

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